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第1章 言葉遣い

1.コミュニケーションは難しい?

◆コミュニケーションには相手が存在する

 「コミュニケーション」という言葉は、ラテン語の「共有する」が語源と言われています。メッセージのやり取りを互いに理解しあって成り立たせるもので、そこには必ず他者の存在があります。
 しかしながら、職場に代表される、世代も価値観も立場も異なる者同士のコミュニケーションは難しく、認識に齟齬が生じたり、トラブルに発展したりしてしまうケースも少なくありません。実際に、多くの会社で課題になっているのが現状です。社会人になれば好き嫌いにかかわらず様々な人と関係を構築し、仕事を円滑に進めていかなければなりません。
 「コミュニケーションの質」が「仕事の質」に影響していくことになります。 私たちは言葉を介して多くのメッセージを相手に送る生き物ですが、その言葉を質の高いものにするには、いくつかのポイントがあります。

  • (1)コミュニケーションの決定権は相手
    •  受け取る側に決定権があることを意識することが大切です。「自分は正しく伝えたのに……」というのではなく、伝わってこそコミュニケーションだと理解しましょう。
  • (2)「誰が言ったのか」が大切
    •  信頼している人の言葉は素直に受け取れる……誰しも経験があるのではないでしょうか。
    •  信頼関係があるか否かでメッセージに影響が出るのであれば、お客様や職場の人たちとの関係構築は大事なポイントになるはずです。
  • (3)バーバルとノンバーバルが存在する
    •  言葉そのものだけでなく、声のトーンや表情、身だしなみや態度など、ノンバーバル(非言語)のメッセージ性もとても強いと言われています。特に表情には言葉を超えるメッセージ性があると言われており、私たちは表情から相手の真意を汲み取ったりします。
    •  そのため、コミュニケーションをとる際はノンバーバルをないがしろにせず、むしろバーバル(言語)とセットでやり取りするという気持ちが必要です。
    •  お客様に対して丁寧な言葉を使っても、表情に誠意が見られないと相手の心に響かないばかりか、クレームにもつながりかねません。また、元気なあいさつは明るい表情があってこそのものです。
    •  普段、当たり前にやっていることも多いと思いますが、言葉を補ったり質を高めたりするための知識やスキルを意識するだけでも、コミュニケーションは活性化していきます。

◆一定の基本形を習得することで自信につなげる

 敬語や接客用語などには、一定の形があります。
 その基本形をマスターすることで、まずは「形から入り自信につなげる」という習得の手順も考えられます。基本をしっかり習得することは、

①一定の質を確保できる
②相手や場面によって応用できる素地ができる
③自信が行動を変えていく

 など、いろいろな効果が期待できます。
 新人のメンター役や、お手本となるべき立場の人たちにとっても、基本を理解していることで、自信を持って後輩指導ができます。率先垂範を心がけましょう。

◆相手の立場を考えたコミュニケーション・マナー

 ストレスの原因は入間関係の問題、人間関係の問題はコミュニケーションの問題、と言われています。コミュニケーションはそれほど奥が深いのですが、「相手の立場に立つ」という敬意・尊重の気持ち(心)を表すことで良好な関係を築き、信頼関係のべースを作ることができます。
 そして、その心が相手に届くように「言葉」と「行動」という形(技)で表していきます。よく言われるように、「心は見えずとも、心遣いは見える」からです。
 さらに、質の高い言葉・行動であれば、相手を敬う気持ちが届きやすくなるでしょう。ぜひ今日から始めてください。
 組織での活動はリレーに似ています。言葉のバトンを落とさずしっかり受け渡し、質の高いコミュニケーションをとることで、様々な人間関係が良好になり、自社のブランドイメージにも貢献できます。

2.三種類の敬語と美化語

◆三種類の敬語の特徴と使い方

 敬語には、年齢や立場などの「相手との差や距離(親疎の差)」を埋める役割があります。敬語を使うことで、どのような立場の人とでも話をすることができます。 現在では、謙譲語は二つに分けて論じられていますが、基本は丁寧語、尊敬語、謙譲語という三種類です。

①丁寧語:言葉を丁寧にすることで敬意を表す
②尊敬語:相手の行為を高めて敬意を表す
③謙譲語:自分の行為をへりくだり、相手に敬意を表す

 「です・ます」を使う丁寧語は誰にでも使える非常に便利でシンプルな敬語ですが、相手に敬意を示すためには、さらに質の高い尊敬語や謙譲語が求められます。 主語を気にせず使えていた丁寧語が、相手(他者)には尊敬語、自分(身内)には謙譲語という二つに枝分かれするため、少しハードルが高くなります。

≪主な基本の敬語表≫

原形丁寧語尊敬語謙譲語
するしますなさるいたす
いるいますいらっしゃるおる
行く行きますいらっしゃる参る・伺う
来る来ますお越しになる参る
食べる食べます召し上がるいただく
知っている知っていますご存知存じる

≪使い方の例≫

「する」→誰が営業資料を作成するか確認したいとき
丁寧語:部長/私が営業資料を作成しますか
尊敬語:部長が営業資料を作成なさいますか
謙譲語:私が営業資料を作成いたしますか

◆美化語とは何か

 美化語は、「ものごとを、美化して述べるもの」と定義されています(文化庁「敬語の指針」)。
 丁寧語の一つとも考えられていて、「お」「ご」をつけることで言葉を丁寧にする効果があります。
 「お酒」「ご飯」などは日常語として定着した言葉になっています。
 また、和語には「お」、漢語には「ご」がつくと言われていますが、「お返事」と「ご返事」、「お病気」と「ご病気」などはどちらも使われており、かなり混在していて線引きが難しくなっています。

和語 → お知らせ、お勤め、お集まり
漢語 → ご通知、ご勤務、ご参集

 「御御御汁(おみおつけ)」は、汁物を指す「おつけ」にどんどん美化語がついたという説があります。今はお味噌汁が一般的ですが、面白いですね。

◆行為が向かう先を立てる美化語

 「ご連絡いたします」「お送りいたします」など、自分の行為に美化語をつけてもよいのかという疑問も湧きますが、一般的に使われます。
 前出の「敬語の指針」では「それが<向かう先>を立てる場合であれば、(中略)『お』や『御』を付けることには全く問題がない」と示されています。  また、以前は「伺います」が正解だったものが、「お伺いします」や「お伺いいたします」も正解となり、最近ではむしろこちらが多く使われるようになっています。  何でもかんでも美化語をつける風潮を疑問視する声もありますが、おビール(本来はビール)など、多くの人が使い、市民権を得た感のある言葉もあります。

美化語をつけない言葉

外来語ジュース、スポーツ、スーツなど
動植物犬、うさぎ、桜、ひまわりなど
オフィス用品机、黒板、手帳、時計、資料など

3.敬称の使い方と他称・自称

◆敬称の使い方と社会慣習

 敬称とは、人名や職名の下につけて、その人への敬意を表す語のことです。男性、女性にかかわらず社内で使っている「さん」も敬称の一つです。
 顧客や取引先などの他者につける敬称としては、「様」がもっとも多く使われています。「殿」の敬称は公庁が出す文書で今も時々目にしますが、現代では「様」が主流です。また、「貴」「御」など、言葉の頭につけて尊敬語にする敬称もあります(敬称は、接頭語や接尾語の一種と言われています)。
 会話の中で敬称を使うときは、次の点に注意するようにしましょう。

  • (1)役職名には敬称が含まれている
    •  ○○社長様、○○部長殿は、文法上は○○社長、○○部長となります。
    •  しかしながら、社会慣習としては○○社長様のように「役職+様」は根強く残っているため、間違いとは言いがたいところがあります。
    •  訪問先では、「部長の○○様とお約束をしております」「課長の○○様はいらっしゃいますでしょうか」などと役職を先にして伝えるとよいでしょう。
  • (2)会話と文書では敬称が異なる
    •  会話で用いる敬称と文書で用いる敬称が存在します。
・御 → 話し言葉:「御社」「御校」など
・貴 → 書き言葉:「貴社」「貴校」など

 「ご高見」や「ご尊顔」など、すでに敬っている言葉をさらに美化する敬称も日常的に使われています。「役職+様」と同じように、文法と慣習が混在しているため、日本語の言葉遣いは難しく感じてしまいます。
 基本文法を理解し、正しく使うことも大事ですが、あまり細かくこだわるよりも「丁寧に伝えること」を心がけることが大切ではないでしょうか。

 迷ったらNHKのアナウンサーの言葉遣いをお手本にするとよいでしょう。

①社外に伝える場合 → 謙譲表現
 ・○○(名字)は出かけております
 ・社長の○○は外出しております
②社内やご家族に伝える場合 → 尊敬表現
 ・社長はお出かけになりました/出かけられました
 ・社長は外出していらっしゃいます/なさっています

ほかに、相手を立てるために使う他称と自分側を低めるために使う自称があります。謙遜も行き過ぎは禁物です。時と場合によって柔軟に使うようにしたいですね。

◆ウチとソトという関係を表現する

 「社長の○○様はいらっしゃいますか」という来客に対し、「○○社長はお出かけになられています」は、ウチ・ソトの関係を誤っている極端な例です。
 社外の人には、社内の人を身内と捉えて謙譲表現を使うことは多くの人が理解していますが、使い方も表現もいろいろですので、一度確認しておきましょう。

≪他称と自称≫

 相手側(他称・尊称)自分側(自称・卑称)
あなた、あなた様わたくし
会社貴社、御社当社、弊社、私ども
学校貴学、貴校、御校当校、本学
場所貴地、貴地方、御地当地、当所、当地方
自宅尊宅、ご自宅、お住まい拙宅、自宅、我が家
考えご意見、ご高見、ご意向私見、愚見
実父、夫の父お父様、お父上、ご尊父様父、義父
実母、夫の母お母様、お母上、ご母堂様母、姑、義母
妻の父ご岳父様父、義父
妻の母ご岳母様、ご丈母様母、義母
ご主人(様)夫、主人
奥様、ご令室(様)妻、家内
息子ご子息、ご令息せがれ、息子
ご令嬢、ご息女、お嬢様

4.間違えやすい言葉遣い

◆尊敬語と謙譲語の混同

 尊敬語と謙譲語を混同して使っている社会人を多く見かけます。
 間違った敬語を使っても意味は伝わりますが、やはり基本的なものはしっかり使いこなせるようにしましょう。
 つい謙譲語を使ってしまう、間違えやすい表現を挙げておきます。

誤)部長、お昼はいただかれましたか
正)部長、お昼は召し上がりましたか
誤)部長が申されたことですが
正)部長がおっしゃったことですが
誤)あちらで伺ってください
正)あちらでお尋ね(お聞き)ください

◆慣習として使われている表現

 「部長はおられますか」は、尊敬表現でしょうか?
 「おる」は謙譲語ですので、本来は「部長はいらっしゃいますか」が正しい表現ですが、「おられますか」も地域によってはよく使われており、また慣習として定着している表現です。
 敬語は、性差や世代、地域でも異なるということに注意が必要です。
 「とんでもございません」も、よく質問を受ける表現です。
 実際には、「とんでもない」を敬語にすると「とんでもないことです」に変化しますが、前出の文化庁「敬語の指針」では「相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり、現在では、こうした状況で使うことは問題がないと考えられる」とされています。
 間違った使い方と考える人も多いのですが、許容範囲として認知されている表現です。
 ほかに例を挙げると、「花に水をあげる/花に水をやる」、あるいは「鳥にえさをあげる/鳥にえさをやる」のどちらが正しいでしょう。
 どちらも後者「やる」が正解ですが、「あげる」は定着していますし、「えさをやる」という上からの言葉に抵抗感を抱く人も多いようです。

◆二重敬語の難しさ

 二重敬語とは、一つの語に同じ種類の敬語を重ねて使う言葉のことで、誤った表現とされています。
 そもそも敬語が過剰に使われていると、くどい印象を受けるのではないでしょうか。
 「お~られる」「ご~られる」「ご~される」は二重敬語の代表格です。
 一方で、許容範囲内の二重敬語も存在します。
 文法上は間違いでも、多くの人が使っているためです。
 また、「~させていただく」の多用も、同様にくどいと感じてしまいます。
 この言い回しは、本来は依頼を受けての言葉遣いと心得ましょう。

◆若者言葉/マニュアル言葉

 「よろしかったでしょうか」などは、コンビニエンスストアやファミリーレストランで使われることの多い表現です。
 よく耳にするのでつられて使ってしまう人も多いのですが、気をつけたい言葉遣いの一つです。

≪二重敬語と許容の例≫

誤)部長がおっしゃられた
正)部長がおっしゃった
誤)お客様がご覧になられました
正)お客様がご覧になりました
誤)昼食をお召し上がりになられましたか(三重敬語)
△)昼食をお召し上がりになりましたか(許容)
正)昼食を召し上がりましたか(正解)

≪「~させていただく」の例≫

誤)お電話させていただきます
正)お電話いたします

≪若者言葉/マニュアル言葉の例≫

誤)よろしかったでしょうか → 正)よろしいでしょうか
誤)~になります → 正)~でございます
誤)千円からお預かり… → 正)千円、お預かり…
誤)私的には → 正)私としては

5.ワンランク上の接遇用語を使いこなす

◆基本を習得することが応用への近道

 接遇用語とは、来客などに応対する際の言葉遣いのことです。ぎこちない動作や言葉遣いも、場数をこなしていると自然なふるまいになっていきます。
 ポイントは、お手本となる人を近くに作ることです。
 接遇用語は多様な言い回しがあるため、TPOでの使い分けを身近で感じ、真似しながら使っていくことで、習得度も好感度もアップしていきます。

①少々(少し)お待ちください/くださいませ
②少々お待ちくださいますか/いただけますか
③少々お待ちいただけますでしょうか
④少々お待ちいただくことはできますでしょうか
⑤少々お待ちいただけませんでしょうか

 どれもよく使う表現ですが、皆さんはどの言い方を好んで使っていますか。
 ①②の「ください……」は尊敬、②の「いただけ……」は謙譲表現で伝えています。③④⑤の依頼形は丁寧さが増し、④⑤は待ってもらいたいという「依頼が強く出ている表現」とも言われています。もちろん前後のフレーズや表情でも、言葉のニュアンスは変化します。

◆丁寧なやさしい印象を作るクッション言葉

 何かをお願いしたり、断ったりする場合にクッションの役割となって表現を和らげてくれるのがクッション言葉です。マジックフレーズの一つで、コミュニケーションを円滑にしてくれる強い味方でもあります。

例:少々お待ちいただけますでしょうか
→ 恐れ入りますが、少々お待ちいただけますでしょうか

 「○○のサービスを利用したい」というお客様には、次のどの表現が適切でしょう。

① はい。それではこちらの書面に……
② はい。○○のサービスですね。それではこちらの書面に……
③ はい。○○のサービスですね。ありがとうございます。それではこちらの書面に……

 ②のように、相手の言葉を繰り返すコミュニケーションは聞き聞違いを防ぐプラスアルファの効果もあります。
 ③はさらに、お礼の言葉を添えています。この「ありがとうございます」や「助かります」などもマジックフレーズです。「それでは……」の代わりに「お手数ですが」もOKです。

◆ホスピタリティ(おもてなしの心)を表すために

 個の時代と言われる環境では、流れ作業ではなく組織で働く社員一人ひとり、お客様一人ひとりの気持ちや立場を汲み取る仕事の仕方が求められます。価値観も状況も多様な時代に、一律な対応では顧客満足度(CS)の向上は望めません。必要なのは次のような心構えです。

・相手の言葉に耳を傾けて → 適切な言葉を使う
・周囲に目と心を配り(気働き) → 適切な言葉をかける

 相手の期待を上回るホスピタリティをスマートに表現できるよう、少しずつ感性を磨きましょう。

接遇用語

≪よく使う接遇用語≫   ≪主なクッション言葉≫
〈日常用語〉 〈接遇用語〉   〈依頼〉
あって、こっちあちら、こちら 申し訳ございませんが
だれどちら(様)、どなた(様) お手数ですが
ちょっと少々、少し ご足労ですが
ただ今 よろしければ
今度このたび 失礼ですが
あとで後ほど、あらためて お差し支えなければ
もうすぐまもなく  〈断り〉
このあいだ先日 残念ですが
何のどのような せっかくですが
どうですかいかがでしょうか あいにく
そうですさようでございます 恐縮ですが
わかりましたかしこまりました、承知しました 身に余るお言葉ですが
その通りごもっとも 申し上げにくいのですが

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03manner/03manner_1.1726388205.txt.gz · 最終更新: by norimasa_kanno
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